昨夜の雑感

昨夜は吉祥寺に向かう用件があったので、3時ごろに家を出た。
途中でKFCと書店へ寄ってから、JR高田馬場駅へ。
トイレに入って小水を致していたところ、件の地震が起きた。

大きな揺れはご存じのように一回、ぐらり、ときただけであったが、その刹那に股間を押さえたまま慌てふためく所用中の大人ども。
あの場面で、そのまま天井が崩れ落ちて生き埋めにでもなってしまったらと思うと日常の体裁というものはいかに諸行無常かと、痛感した。

とにかくホームに上がってみると、すでに軽い混乱が巻き起こっているようで、中年駅員が体躯にそぐわないヒステリックな声で運転中止のアナウンスを伝えていた。
まぁ、そんなに大した揺れでもないだろうと思っていたのだが、いっこうに運転再開される気配はなく、ホームには人が溢れている。
どこかで花火だったのだろうか、浴衣姿の人も多かった。

つい最近、アメリカの研究所が発表したことで記憶していたが、満員電車がなんらかの理由で運行停止になった場合、その中に閉塞された人の感じるストレスというのは、ジェット戦闘機パイロットのそれを上回るらしい。
日本のサラリーマンのメンタリティをもってすれば適性試験もオールクリアということか。

15分ほどで、向かいの西武線が何事もなかったかのように動き出した。
アナウンスによると現在都心で動いているのは西武線と京王線だけらしい。
なんだか、この2社の根性というか、なげやり感が垣間見えて面白い。
西武新宿線による、新宿駅までの代替輸送が決まったので、ホームを下ってみることにした。
そこにはいままで見たことの無いような行列ができていた。
なんだか、並んでいる人の目は濁っているくせに、やけに猛々しくて一種、異様な雰囲気だった。
行列はとても一時間ほどで消化されるように見えなかったので、諦めてホームに戻り、喫煙所に向かった。

喫煙所こそ、すごかった。
すでに30分以上待たされて、焦燥を抑えられなくなった人々がざっと40人ほどか。
濛々と煙をはき出していて、完全に空気が死んでいた。
俺もラッキーストライクを一本咥えて、火をつけてはみるが、一体誰の煙草の煙を吸い込んでいるのか判らないような状態だ。

行列は少しマシになっていた程度だったが、いつまでもここにいるわけにもいかず、このままでは吉祥寺に6時という約束にとても間に合わない。
行列に立ち、さっき買ったばかりの川島誠の小説を開いた。

結局、代替輸送の白い紙切れを手にしたのは小説が65ページも進んだあとだった。
西武線の車両にはバーチャルな屍臭が溢れているかのようで、聞こえてくるのは愚痴と、中学生たちの「すっげー、すっげー、マジ、スッゲー地震だった」という、ゆとり教育の災禍の表象のみに終始した。

新宿駅は、もはや、駅ですらなかった。

ただでさえ、土曜の夜。新宿、歌舞伎町口。
山手線も中央線も京浜東北線も横浜線もストップ。
汗の臭いが充満している改札は罵詈雑言の大名行列状態で、応酬しているJR職員も半ばキレているとしか思えない。
人で溢れ、電光掲示板には「復旧未定」が光り続ける中、担架を持った救急隊員が俺の横を駆け抜けていった。
どうやら、ホームではストレスと疲労で倒れる人が続出しているらしい。

横のタクシー乗り場では、整列順序でトラブルが起き、アルタビジョンには災害情報が映され、横のオッサンはキヨスクのねーちゃんに何やらいちゃもんをつけている。
もう、ダメだと思った。
災害時の助け合いなんて欺瞞だと思った。

俺は阪神大震災を経験し、まぁ、大阪中心部だったから損害は被らなかったが、それでもやはり友人の家屋は半壊したし、親戚も怪我を負った。
昨日の地震は、東京で震度4だ。別に、ビルが倒壊したということもない。
交通網が麻痺したが、倒れる人はいても、それが要因で死ぬ人はいない。
なのに、この大パニック。
東京で、人と人との繋がりなんて求めるべきじゃないんだろうか。

結局、吉祥寺にはたどり着けなかった。
中央線が運転再開を謳っていたくせに、来なかったのだ。
小説の残りを読み進めながら、高田馬場へ帰った。
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by sargent_d | 2005-07-24 16:36
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