プリーストの新譜が出た。
まだ買っていない人は絶対にDVD付きバージョンを買うべきだ。 特にBREAKING THE LAWのライブ映像は神懸かっている。 このDVDだけにでも2500円払えるぞ。 思えば、高校生活の伴侶がメタルのCDだったことはプリーストに起因する。 ガンズ→ハロウィン→プリーストというグランドラインでメタルに染まったのだが、決定打はやはり"Painkiller"であった。 もう、それはそれは聴きまくった。 買った日なんて3回は通しで聴いた。 今では単に弾けてないだけという冷静な判断を下せるギターソロ導入部も当時の俺は 「このぐちゃっとしたフレーズは凄いテクニックに違いない」 と勝手に信じ込んでいた。 それ以来、ひたすらメタルだけを聴いて過ごした。 周りにメタラーは存在しなかったので、ネットでメタルサイトをブックマークしまくり、Burrn!!を舐めるように隅から隅まで熟読した。 一年間を経たころには既に 「slayerのHell Awaits、デジタルリマスターでリリースされないかなぁ」 なんてメタルサイトに書き込んでしまう、気持ち悪すぎる高校生に変貌を遂げていた。 こんな俺に音楽で語り合える友人がクラスにいるわけない・・・と思うのだが、いた。 原田君という友人だ。 もともとエアロが好きだったので、ガンズやホワイトスネイクを貸したら仲良くなったのだ。 だが、彼はメタルを拒絶した。 原「いや、メタルは無い。受け付けん」 俺「でも、デフレパードもオジーも聴くやんけ」 原「あれはメタルとちゃう。ハードロックや」 俺「ふざけるな」 そんな会話をしながら、昼休み、教室で弁当を食していた。 天井にぶら下がったぼろいスピーカから割れた音で所謂「お昼の放送」が流れている。 放送委員が選曲して、適当に流しているので、大抵はトップ10音楽。希に、その日の担当がアニオタならアニソンが流れた。 よって、ほとんどの生徒は聞き流してしまう。 無論、俺もであり、原田君に対し「メタルはジャンルじゃない、アティチュードだ!」と説教していたのだが、スピーカから流れるフレーズに気づいた俺は固まった。 流れているのだ。明らかに。 PANTERAの"Becoming"が。 確信した。 俺は孤独じゃない。 同時に使命を感じた。 今日の放送委員も、俺のように普段寂しい思いをしているに違いない。 メタラーが二年B組にもいることを教えてやらねばならない。 それこそがメタルミリティアたる人格の義務である。 放送終了時の担当者紹介を聞けば、誰がメタラーなのか判るはずだ。 「本日の担当は二年E組、竹中でした」 ・・・・・・同級生か。でも、竹中なんて聞いたことないな。 そう思いながら、放課後、ダッシュでE組に向かった。 E組もちょうど終わったようで人がぞろぞろと出てくる。 さっそく、E組の友人に 「竹中は誰か?」 と尋ねると友人は明らかに不思議な顔をして 「あー、あいつやけど」 と、一人を指さした。 またも、俺は固まった。 そこにいたのは誰がどう見てもいじめられそうな奴ダービーを15馬身差で圧勝してしまいそうな奴だった。 事実、竹中君に話しかけるやつは誰もいない。 友人に再度尋ねた。 「あいつ、どんな奴?」 「いやー・・・・・・ほとんど話したこと無い」 結局、俺はその日竹中君に話しかけることはできなかった。 趣味を共有していると知りながら話しかけることすらできなかった。 いざ、竹中君に会ったら、仲良くなれる自信がズタズタになってしまったのだ。 帰宅してから、なんと自分はふがいないかと心底思った。 明日こそは声をかけようと決意し、カバンにBurrn!!を入れた。 次の日の朝は全校朝礼だった。 今、考えるとふざけきったことなのだが、朝礼の日は朝礼が終わるまで教室に入ってはいけないのだ。つまり、校庭の脇で待ちぼうけ。冬でも夏でもである。 それでも、9割以上の人間が真面目に待つのだから、なんてつまらん学校なのだろう。俺もしっかり並んでいたが。 竹中君が歩いてきた。別に寒くも無いのに背中が丸まっているようだった。 10メートルほど離れたところにぽつんと座った竹中君は何をするでもなく、カバンのチャックを開けたり閉めたりしていた。 意を決して、彼の肩をトントンと突いた。 「聞きたいんやけど・・・これ、わかる?」 「ああ・・・・・・うん」 俺の差し出したBurrn!!に反応してくれ、竹中君メタラー説は確定した。 彼はわりと新しめのメタルが好きだということが判った。 ソウルフライやスリップノットも好きらしい。 あと、高校生メタラーはお約束だが、メロスピも好きだった。 竹中君とはよく話すようになった。 CDを貸すとやたら喜んだ。 特にガンマレイはツボだったらしく、一時期はガンマレイの話しかしなくなった。 その間も俺はネットにのめり込んで、メタル系の最新情報を集めまくり、そっくり竹中君に流した。 2ヶ月ほど経った。 竹中君は、電話でメタルの話をしてくるほどになってしまった。 正直、俺は鬱陶しくなってしまっていた。 さすがに、受験を意識する時期だった。 難解な古文を辞書を使って逐語訳しているときに、ドリームシアターの話で電話されても腹が立つだけである。 必死で英単語を覚えているときに、「ねー、ソナタアークティカの2nd買ったんでしょ?貸してよ」と言われたこともある。 そして、ようやく眠れる・・・・・・という段になって「ねー、ガンマレイ来日するんだよ。お願いなんだけど、チケット取ってくれない?取り方わからなくてさー」という電話がかかってきたときには、我慢できなかった。 少しは自分で調べろ、ボケ、と吐き捨てて電源を切った。 翌日、少し言い過ぎたかと思いながら学校に行くと、竹中君は全く凹んでいなかった。 「ねー、チケット頼むよ」と言われて、呆然とした。 それ以来、俺は竹中君を避けた。 電話もメールも無視した。 それでも、2日に一回は履歴が残った。 1ヶ月たっても、彼は電話をかけてきた。 いつ諦めるんだろうと思っていたら2ヶ月経った。 3年生に進級したら、忘れたころにまたメールが入って「ラプソディーの新譜買った?」と書いてあった。本当に力が抜けた。 そして、そのまま卒業した。 竹中君がいまどうしているのかなんて知らない。 勉強はそこそこできたから、どこかの大学に入っただろうか。 俺はバンドサークルに加入し 「意外とメタラーって存在してんだな」 と思いながら、日々を過ごした。 メイデンが来日した。 会場に先輩と赴き、開場を待っていると、後ろの男性が話しかけてきた。 25歳ぐらいだろうか。澱んだ目をしている。 「あ、あの。良かったら待ってる間、話しませんか?実は私、こういうメタルってあんまり詳しくなくてですね、ええと、普段はアークエネミーとか、そういうメロデスなんかばっかり聞いているんで、良かったら、あの、メイデンの話とか教えて欲しいんですけど、どうですか?」 俺は、会釈して、無視した。 後ろの男性は少し落ち込んだ風だった。 俺は竹中君のことを思い出した。いまでもたまにもどかしくなる。
by sargent_d
| 2005-02-24 04:16
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